暗黒物質の存在は重力的な影響から確実視されていますが、いまだに直接検出されていません。そのため、世界中で様々なアプローチで正体を探る実験が行われています。
1. 暗黒物質の有力候補「WIMPs」
現在、最も有力な暗黒物質の候補は、WIMPs (Weakly Interacting Massive Particles: 弱く相互作用する重い粒子) です。
- 性質: WIMPsは、弱い力(放射性崩壊に関わる力)と重力のみでしか通常の物質と相互作用しないと考えられています。質量は陽子や中性子の数十倍から数千倍程度と予測されています。
- メリット: WIMPsの理論は、初期宇宙における粒子の生成量と、現在の宇宙における暗黒物質の存在量をうまく説明できるため、非常に魅力的です。
2. 暗黒物質の検出実験の主要なアプローチ
A. 地下直接検出実験 (Direct Detection)
地球に降り注ぐ暗黒物質粒子を直接捉えようとする実験です。
- 方法: 地下深くの施設(外部ノイズを遮断するため)に設置された、巨大な低温の検出器(液体キセノンなど)を使用します。
- 原理: WIMPsが検出器の原子核にごく稀に衝突した際に発生する、微細な光や熱を捉えようとします。有名な実験には、XENONnT(日本の神岡などでも関連研究が進行中)などがあります。
B. 間接検出実験 (Indirect Detection)
銀河ハローなどで暗黒物質同士が衝突し、対消滅する際に生じる高エネルギーのガンマ線や宇宙線を宇宙から捉えようとする実験です。
- 方法: 宇宙望遠鏡や地上ガンマ線望遠鏡(例:日本のFERMI、**H.E.S.S.**など)を用いて観測されます。
- 目的: 暗黒物質が対消滅して、通常の物質粒子(電子、陽子など)や高エネルギー光子に変わる痕跡を探します。
🌌 暗黒エネルギー(ダークエネルギー)の理論的側面
暗黒エネルギーは、宇宙を加速膨張させる「反重力」的な性質を持つエネルギーであり、その正体は現在の物理学における最大の謎です。
1. 最も有力な理論「宇宙項」(コズモロジカル・定数)
暗黒エネルギーの最も単純で有力な理論的説明は、アインシュタインが一般相対性理論の方程式に導入した宇宙項(Cosmological Constant)です。
- 提唱: アインシュタインはかつて、宇宙を静止させるためにこの項を導入しましたが、後に撤回しました(人生最大の誤り)。しかし、現在の加速膨張の観測により、この項が正の値を持つことで、暗黒エネルギーの振る舞いを極めて正確に説明できることが分かりました。
- 物理的解釈: 宇宙項は、真空空間そのものが持つエネルギー、つまり真空のエネルギーと解釈されます。空間が増えれば増えるほど、そのエネルギーも増え、加速膨張を駆動します。
2. 量子論との深刻な矛盾
宇宙項が「真空のエネルギー」であるとすると、量子力学(素粒子物理学の理論)と深刻な矛盾が生じます。
- 量子論の予測: 量子論に基づき、真空のエネルギーを計算すると、その値は観測されている暗黒エネルギーの値に比べて、なんと10^120倍も巨大になってしまいます。
- 問題点: この天文学的なほどの差は、「宇宙項の謎」または「真空のエネルギー問題」と呼ばれ、量子論と一般相対性理論を統一しようとする現代物理学の最大の課題の一つです。
3. 他の理論的候補
宇宙項がこの矛盾を抱えるため、他の暗黒エネルギーの理論も探求されています。
- クインテッセンス (Quintessence): 時間とともに変化する動的なエネルギー場(スカラー場)で暗黒エネルギーを説明しようとする理論です。しかし、この場がなぜ重力に逆らうように振る舞うのかという新たな問題が生じます。
- 重力理論の修正: そもそもアインシュタインの一般相対性理論が、宇宙の巨大なスケールでは修正されるべきである、という考え方です。これにより、暗黒エネルギーのようなものを仮定せずに加速膨張を説明しようとします。
暗黒物質と暗黒エネルギーの正体を突き止めることは、宇宙の成り立ちだけでなく、物理学の基本的な法則全体を書き換える可能性を秘めています。

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