宇宙に存在する天体のなかで、最も過激で、そして最も深い謎を秘めているのがブラックホールです。これは、単なる巨大な天体ではなく、アインシュタインの一般相対性理論によって予言された、時空の究極的な姿を体現しています。
🕳️ 究極の重力と時空の歪み
ブラックホールとは、重力が極端に強く、光さえも脱出できない領域を持つ天体のことです。
アインシュタインの理論によれば、質量を持つ物体は、その周囲の時空(時間と空間)を歪ませます。地球がゴムシートの上に置かれた重いボールのように空間をへこませるのに対し、ブラックホールはその質量が極限まで圧縮されているため、時空を底なしの穴のように深く、鋭く歪ませます。
この歪みの中心には、密度と重力が無限大になる特異点(Singularity)が存在すると考えられています。
💡 事象の地平線(イベント・ホライズン)
ブラックホールの本質的な境界線が、**事象の地平線(Event Horizon)**です。
これは、光速で移動しても外部へ向かって脱出することができなくなる、一方向通行の境界です。この地平線の内側で何が起こっても、光(情報)が外に届かないため、私たちはその「事象」を知ることができません。そのため「地平線」という名がついています。
太陽をブラックホールにするには、現在の直径約140万kmから、わずか約3kmにまで圧縮する必要があります。これほど極端に質量が集中した天体だけが、事象の地平線を形成できるのです。
👑 ブラックホールの種類:大小の支配者
ブラックホールは、その質量によって大きく2つのタイプに分類されます。
- 恒星質量ブラックホール: 太陽の数倍から数十倍の質量を持つタイプで、大質量星がその一生の最期に起こす超新星爆発の後に残る残骸です。銀河系内には数千万個存在すると推定されています。
- 超大質量ブラックホール(Supermassive Black Hole): 太陽の10万倍から数十億倍という途方もない質量を持つタイプ。驚くべきことに、ほぼすべての巨大銀河の中心に存在しています。私たちの天の川銀河の中心にある「いて座A*(サジタリウス・エー・スター)」も、太陽の約400万倍の超大質量ブラックホールです。
🔥 輝く円盤とジェット
ブラックホール本体は光を発しませんが、実際には宇宙で最も明るく輝く天体として観測されることがあります。これは、ブラックホールが周囲の物質を吸い込むときに起こる現象が原因です。
- 降着円盤(Accretion Disk): ブラックホールの強大な重力に引き寄せられたガスや塵は、渦を巻きながら落下していきます。この物質の流れが巨大な降着円盤を形成し、内部のガス同士が摩擦で擦れ合うことで、数百万度から数千万度という超高温に加熱されます。この熱によって、X線や紫外線などの強烈な光が放射されます。
- ジェット(Jet): 一部のブラックホールからは、その軸方向に、光速に近い速度で物質の噴流(ジェット)が噴き出すことがあります。これは降着円盤の物質と、ブラックホール周辺の磁場が複雑に作用して発生すると考えられています。
この降着円盤やジェットからの光こそが、2019年に**イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)**によって世界で初めて撮影された、ブラックホールの「影」のリング状の光の正体です。
この動画では、映画『インターステラー』を題材に、ブラックホールの性質や時空の概念がわかりやすく解説されています。

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