私たちは、星、惑星、ガス、そして私たち自身といった通常の物質(バリオン物質)で宇宙のすべてができていると考えがちです。しかし、最新の宇宙観測が示す事実は驚くべきものです。宇宙の総エネルギー・物質構成の約95%は、目に見えない、未知の存在である暗黒物質と暗黒エネルギーによって占められているのです。
⚫ 暗黒物質(ダークマター):見えない重力の支配者
暗黒物質 (Dark Matter) は、その名の通り「暗く」、光を放出・吸収・反射しないため、望遠鏡では直接観測できません。にもかかわらず、その存在は宇宙のさまざまな現象によって間接的に証明されています。
1. 存在の証拠:銀河の異常な回転
暗黒物質の存在が最初に提唱された最大の根拠は、銀河の回転速度の観測です。
- 銀河内の星やガスの回転速度を測定すると、その速度は銀河の中心から遠ざかっても、予測されるより遥かに速いことが判明しました。
- もし銀河が目に見える物質(星やガス)だけでできているとしたら、外側の星は内側の星よりも遅く回転するはずです(太陽系で遠い惑星ほど公転が遅いのと同じ)。
- この矛盾を解決するには、目に見える銀河の周囲に、巨大な**「見えない重力源」が取り巻いていると考えるしかありません。これが暗黒物質**です。
2. 暗黒物質の正体
暗黒物質は、電磁気力(光)と相互作用しないため、通常の原子とは根本的に異なる粒子で構成されていると考えられています。有力な候補としては、WIMPs (Weakly Interacting Massive Particles) と呼ばれる、まだ見つかっていない未知の素粒子が挙げられています。世界中で、このWIMPsを直接検出するための実験が続けられています。
🚀 暗黒エネルギー(ダークエネルギー):宇宙を加速させる反重力
もし暗黒物質が宇宙の「見えない接着剤」だとすれば、暗黒エネルギー (Dark Energy) は宇宙の「見えない原動力」です。これは宇宙論における最大の謎とされています。
1. 存在の証拠:宇宙の加速膨張
1998年、遠方の超新星爆発の観測により、宇宙は単に膨張しているだけでなく、その膨張速度が時間とともに加速しているという衝撃的な事実が発見されました。
- 重力は物質を引きつけ合う力なので、本来であれば宇宙の膨張は時間とともに減速するはずです。
- ところが実際には加速しているため、宇宙空間には重力に逆らうような「負の圧力」を持つ未知のエネルギーが満ちている、と考えざるを得ません。これが暗黒エネルギーです。
2. 暗黒エネルギーの性質
暗黒エネルギーは、空間そのものに均一に存在し、宇宙が膨張して体積が増えるほど、そのエネルギー量も増えていくという非常に奇妙な性質を持っています。その正体はまだ全く分かっていませんが、アインシュタインの一般相対性理論における宇宙項と関連付けられることが多いです。
📊 宇宙の構成:5% vs 95%
現在の最新の観測(プランク衛星など)に基づく宇宙のエネルギー・物質構成比は、以下の通りです。
| 構成要素 | 割合 | 特徴 |
| 暗黒エネルギー | 約68% | 宇宙の膨張を加速させる負の圧力を持つエネルギー。 |
| 暗黒物質 | 約27% | 重力のみで相互作用する、見えない未知の物質。 |
| 通常の物質 | 約5% | 星、惑星、ガス、塵、私たち自身など、光と相互作用する物質。 |
この図が示すように、私たちが観測し、理解できている通常の物質は、宇宙全体のたった**5%**に過ぎません。残りの95%は、現代物理学の最も重要な未解決問題であり、今後の宇宙論研究の中心となっています。

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