小説

只野教授

只野教授の生活

第五章:家庭という名の秘境と、二度と会えない風景1. 玄関の「貼紙」法則只野教授の自宅は、大学から電車で三十分、さらにバスと徒歩で十分という、典型的な郊外の古い一軒家である。大学の雑然とした研究室とは裏腹に、リビングは整理整頓されている……...
只野教授

只野教授の生活

第四章:錆びたシャッターと効率という名の迷路1. 効率性の罠とある土曜日。大学の最寄り駅から二駅離れた、古びた「さつき台中央商店街」。只野教授は、嬉々としてカメラを構えていた。彼の研究のテーマは、この商店街の約三十年間にわたる「閉店告知ポス...
只野教授

只野教授の生活

第三章:スマホ画面の向こう側とマンホール1. エントリーシートと虚無佐藤美咲(さとう・みさき)、二十一歳。人文学部三年生。 髪は流行りのインナーカラー(今は青)、ネイルは常に完璧。インスタのストーリーは毎日更新。周りからは「人生楽しそうな大...
只野教授

只野教授の生活

第二章:最適化アルゴリズムと冷たいサラダチキン1. PDCAサイクルの空回り森川誠(もりかわ・まこと)、三十四歳。人文学部准教授。 彼の腕には最新型のスマートウォッチが巻かれ、常に心拍数、睡眠の質、そして彼が最も恐れる「ストレスレベル」を計...
只野教授

只野教授の生活

第一章:アジフライの定理と学生の憂鬱1. 七時四十三分の観測者只野仁(ただの・ひとし)、五十二歳。地方私立大学、人文学部の教授である。専門は「近現代路上観察学」。平たく言えば、道端に落ちている片手袋や、看板の誤字脱字の変遷を大真面目に研究し...
時の音

時の音 1-3

1-3 地震毎日、パソコンばかりやっていると、頭がぼーっとしてくる。そのうち画面もぼやっとしてきた。ゆらゆらと画面が揺らめいている。なかなか揺れが止まらない。気がつくと達也の体も揺れているようである。地震である。上体を挙げ、辺りを見回す。ざ...
時の音

時の音 1-2

1-2.達也の日常達也はオフィスに戻った。オフィスは骨董屋の近くの道路に面した日当たりの良いビルにある。10階にあるオフィスの窓からは、都心の高層ビルが見える。室内には観葉植物があり快適だ。達也は、パソコンの前に座った。昼休みの終わりのチャ...
時の音

時の音 1-1

1. 異空間1-1. 骨董屋東京の静かな街角、路地を入ると車の喧噪とは離れ、昔ながらの古い家並みが続く。IT企業に勤める宮本達也25歳は、緑色の屋根の小さな入り口の骨董店「時の音」で足を止めた。ショーウインドウに不思議なアイテムを見つけたた...